獣耳彼氏
はっと息を飲む声が聞こえた。
それは、私のではなく彼女。
なんのために電話をしたのか思い出したよう。
彼女が話し出す前に先手を打たなければ。
「って!そんなことより!真琴〜あのアキヅキく…」
「じゃあね!京子、また明日!」
「ちょっ!真琴…」
秋月くんの話題になる前に通話を切った。これが、私の作戦。
プープーと携帯の向こうから機械音が聞こえる。
その向こう側、京子は絶対不満だろうけど、通話を切ってしまえばこちらのもの。
私は今日は携帯を触らないように机の上へと置いた。
明日は質問攻めだろうな。
結局は電話に出た意味もないし。
秋月くんの話題を思い切り避けたから。
気になることは分かるけど。
秋月くんのあの容姿はとても目立つから。
あー早く明日にならないかな…
京子に会うのは少し億劫だし、部長の反応も怖いところだけど。
それよりも秋月くんに会いたいという気持ちが大きいもの。
さっきまで一緒に居たのにもう会いたくなってる。
こんな風に思うのは初めてで自分自身に戸惑う。
これじゃあ、まるで私…
恋する乙女…じゃないの。
私、秋月くんに恋してるの…?
答えの出ない悶々とした気持ちが私の中をひたすらに埋め尽くしていた。