獣耳彼氏

出会いのこととかもう話した通りだし。


特に京子に話せるようなことはないのが事実。


そんなこと言っても京子は納得してくれなさそうだけど。


私が知っている秋月くんのことなんて微々たるもの。


京子がジッと私の顔を見ている。


まるで、嘘なんか言っていないことを確認するためのごとく。



「言うことなんて、なにもないんだけど」



これは正直な話。本当に話せるようなことが見当たらない。



「そんなことないでしょ？」


「本当だってば…っ！」



私の目を逸らすことなく見つめ続ける。


それに答えるためにも私からも逸らすことはない。ジッと耐え受け止めた。



「う〜ん。まあ、本当みたいだね」


「だから、そう言ってるでしょ…」



ようやく、京子の瞳から開放され心の中で一息ついた。


時間にすればとても短い時間だっただろうけど、私にとってはとても長い時間のように感じた。



「でも、まさかあんなイケメンが真琴のね〜真琴も隅に置けないな〜」


「って！元はと言えば京子があの日居なくならなかったら、こんなことにはなってないって」



そうだよ。秋月くんに印象付けた背負い投げ。


あれは、元はと言えば京子が居なくなってナンパなんてされなければ、背負い投げを披露することもなかった。


そう思った瞬間、あることに気づいた。


これって、秋月くんに出会えたのは裏を返せば京子のおかげってこと…？


気づきたくないことに気づいてしまった瞬間。