獣耳彼氏
背負い投げをしたことで私の存在を覚えてもらった。
駅で偶然秋月くんを見かけたとき無視されることもなく話すことが出来た。
これが、あの時京子が居なくならなくて、ナンパもされなくて、背負い投げもしていなかったら。
駅で会っても話しかけることは出来なかっただろうし、もしかしたら秋月くんにも気づかなかったかもしれない。
いくつもの偶然が重なり合って今がある。
偶然、京子離れて。
偶然、ナンパされて。
偶然、背負い投げした瞬間を目撃されて。
偶然、駅で出会った。
偶然が偶然を呼び奇跡を起こす。
不思議な方程式がそこには存在している。
そのことに気づいたら私は言いたくなった。
「京子ありがとう」
京子の目を真っ直ぐに見つめ言う。
急な感謝の言葉に彼女は首を傾げる。
「何が〜?」
「いろいろと。このブレスレットも含めてね。貰っていいんでしょ?」
言葉で言い表すことが出来ないくらい感謝することが多いのは確か。
机の上に置いていたブレスレットを手に取り掲げる。
シャラリと手の中で鳴るそれ。
京子が微笑んで頷く。
それを受けて早速ブレスレットを左手首につけた。
つけた時の冷たさもしばらくすれば体温が伝わり肌に馴染む。
自分の手首についたそれを眺めるとやはり私の好きなデザインだ。
よく分かったな…と思いつつも、聞きたかったことを思い出す。