獣耳彼氏
顔よりも上にあげ、小さく揺れるチャームの月と満月とを重ねる。
ゆらりゆらりと控えめに揺れるチャームに月の光が反射してとても綺麗。
京子がこれをくれた時は何だと、疑問に思ったけど。
今になれば、いいものを貰ったと感じる。
秋月くんと同じ名前を持つ月が揺れる。
気付かぬうちに頬が緩んでいたのを引き締める。
思わず止まっていた足。
顔と手を元に戻し前を見る。
あまり通ったことのない道だけど、家までの道順は分かる。
何も不安なことはない。
止まっていた足をもう一度動かし歩き出そう。
そう思った時、立ち止まっていた道の奥、細い路地。
そこに目がいった。
街灯も照らさない、工事の足場と防音布が影を作り暗いそこ。
なぜか目をそらすことが出来なくて、気付いたら足が動き出していた。
思考が回らず、自分の意思がどこかへ行ってしまったような感覚。
何も考えられず、ただ無気力に歩みを進める。
周りの音という音、全てが遠のいていく。
一歩一歩、私の意思など関係なしに確実に歩みを刻んでいく足。
今になっては、自分の足なのかも分からない。
当然、歩みを進めるうちに路地も近付いて来る。
ドクンドクンと、心臓の脈打つ音だけがヤケに大きく聞こえた。
そして、暗く狭い路地の中へと足を踏み入れた。