獣耳彼氏
家屋と防音布の影になっているせいで、この場所はほとんど暗闇に近い。
自然に作られたとは考え難いほどの闇。
月の明かりさえ届かない。
そういえば、私の名前を呼んだのは。
聞いたことのある、心地よい声音。
あの声の持ち主は、秋月くん。
じゃあ、今私の体を包んでいる温もりは…?
バッと無理矢理に振り返った。
固まった体を動かしたことで、バキバキと骨が鳴ったように感じた。
けれど、そんなことは一切に気にならない。
彼の姿を見てしまったら。
「あ…きづき、くん…?」
掠れるように溢れた声。
見上げた先には秋月くんの整った顔。
しかし、その顔に違和感を覚えた。
いつも見ていた秋月くんの顔とどこか違う。
声や雰囲気は秋月くんのもの。
金色…私を捉えているその瞳の色が金色だ。
それともう一箇所。
視線を上へと持っていく。
そこには、普通の人ならば持たないものが秋月くんの頭にある。
ふさふさとした、触ったら絶対に柔らかいさろうなと思うそれ。
獣の耳を模したそれ。
頭、耳の上にある獣耳。
いつもの秋月くんとは違う姿の彼。
「秋月くん、ですか…?」
恐る恐る私を抱きしめている彼に問いかける。