獣耳彼氏



ドキンドキンと胸が鳴っているのは抱きしめられているからなのか。


それとも、彼が秋月くんだった場合、その獣耳についてどう反応したらいいのか分からないからなのか。



「…ああ」



少しの間を空けて獣耳の彼は答えた。


一際、大きく胸が鳴る。


私のよく知っている、私の耳をくすぐる声で答える彼、秋月くん。


いつもとは違う見慣れない金色の瞳で見つめられ体が硬直する。


秋月くんに抱きしめられているのだと思ったら尚のこと。


命令器官が働かない。


全ての器官、機能がサボりだす。


何も出来なくて、何も考えられない。


ただ、ただ秋月くんのそれから目が離せなかった。



どれだけそうしていただろう。


それは、ほんの数秒の出来事だったかもしれない。


しかし、私には1時間も2時間も経っているような感覚がした。


秋月くんに後ろから抱きしめられて、合う瞳。


それが、一瞬逸れたと思ったら再び合う。



「ついて来い」


「え?あ、秋月くん…っ!?」



私を包んでいた腕が離れる。


温もりが遠ざかっていく。


が、唯一私の腕を掴む手は離れず繋がったまま。


そして、その腕を引っ張られる。



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