獣耳彼氏
力は込められているけれど、痛くはならない絶妙な力加減。
しかし、振りほどくことは出来ないような力。
大きな手のひらが手首全体を包み込む。
私の手首を掴んだまま歩き出す秋月くんに、慌てて落としてしまった荷物を空いている手で掴んだ。
後ろから彼を見上げただけでも分かる。
彼の頭にある獣の耳。
こんな暗い路地でさえ分かるんだ。
道に出てしまったらどうなる?
街灯に照らされてしまったら?
彼の獣の耳が周囲に晒されてしまう。
コスプレしているイケメンだと思われてしまう。
そんな私の心配をよそに秋月くんは真っ直ぐに路地から抜けようと歩みを進める。
後、数歩で道へ出てしまう。
まさにその時。
秋月くんの体が一瞬白く輝き、それが収まった頃には彼の頭にあった獣耳は綺麗さっぱり跡形もなくなくなっていた。
後ろ姿はいつもの秋月くんの姿になっている。
どこも可笑しなところなんてない。
何が起こったのか。
目の前で起きたことなのに、理解することが出来ない。