獣耳彼氏
「あ、秋月くん…っ!」
私の名前を呼ぶ声に答える者はない。
腕を引くその人はスタスタと長い足を動かす。
身長の差がある分当然リーチの長さが違う。
秋月くんに腕を引かれているためどうすることも出来ず、彼の後を必死について歩いた。
歩くよりも早歩きに近い。
次から次へと変わる景色に目が追いつかない。
どこへ連れて行かれるのか。
秋月くんは何も言ってくれないからさっぱり分からない。
彼の後ろ姿だけが視界に映る。
さっきまであった獣耳は跡形もなく消え去った。
そうしたら、目は?
彼の瞳はどうなっているのか気になった。
金色の瞳は戻っているの…?
あの惹き込まれるような色をした瞳は。
後ろ姿からでは彼の瞳の色を伺い見ることは出来ない。
ひたすらに動かし続けている足。
それがふと腕を引いていた力が緩んだ。
そう、秋月くんの足が止まったということだ。
辺りを見渡せば、ここは小さい頃、来たことのある公園だった。
お兄ちゃん達とよく来ていた公園。
数少ない街灯が公園内を照らし出す。
子ども達もすでに帰ってしまった後で静まり返っている。
秋風が木の葉を揺らす音と私の息遣いだけがそこに響く。
「こっち、ついて来い」
秋月くんが振り向きざまに言う。