獣耳彼氏
例え、違っていても
「あの!秋月、くん…?秋月くんはえっと…その…人間、ですか…?」
それも、今一番聞いてはいけないだろう事案。
彼の答えによってはどうなるのか分からない。
肯定されるのが一番いい。
だって、この聞き方だと、否定された場合彼が人間ではないということだから。
人ではない、別の何かになってしまうから。
一瞬だったが確実にこの目で見てしまった獣の耳。
それが示すものがなんなのか、私には分からないけど。
今度は私が秋月くんを見つめる番。
合わさった瞳のせいで、気持ちが悪くなるほどに心臓が暴れている。
いつまで経っても慣れないことだけど、逸らすわけにはいかない。
人と話すときは目を見て話すのが礼儀だから。
本当は今すぐにでも逸らしてしまいたい。
秋月くんは最初驚いた表情を浮かべた。
けれど、すぐにそれは鳴りを潜めて私を見つめ返した。
数秒の出来事だっただろう。
ふと、秋月くんが自嘲気味に笑った。
「…違うと言ったらマコトはどうする」
「…っ!」
そして、彼の発した言葉の後。
瞬きをしたコンマ数秒の世界。
目を開いた先には金髪の中に埋もれる獣の耳と、金色の双眼が私の視界を埋め尽くした。
「…あ」
初めて真正面から見た姿に言葉を失う。
声になりきらない音だけが口から溢れた。