獣耳彼氏



「もう、あなた。そろそろ時間でしょう。真琴のことは私が聞いておくから、早く病院行きなさい。待っている人が居るでしょう」



椅子を引き座らせないようにした挙句、背中を押してリビングへとから追い出す始末。


カバンも忘れずに渡していることから、とても用意周到だ。


まるで、こうなることが分かっていたかのよう。


ドンドンとリビングの扉を叩くお父さんの姿がガラス越しに見える。


その姿が地味に滑稽で。


それを後ろ手で扉を押さえているお母さんは笑顔だ。



つまりは、お父さんを追い出したと同時に私の退路も絶たれたも同然。


リビングから出るに出られない状況になったのだから。



「さて。真琴、教えて頂戴ね。彼のこと」



ふふっとお上品に微笑むお母さんに鳥肌が立ったのは言うまでもない。


いかに空手が出来て強くてもお母さんに勝てる見込みはない。


母は強しとよく言ったものだと、この時改めて感じた。



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