獣耳彼氏



昔は兄妹揃って一緒に空手を習っていた。


でも、お兄ちゃんは中学入ったのと同時に空手はやめて、バスケをするようになった。


私は空手が楽しいから今でも続行。


ずっと空手を続けてる私に技をかけられたら、さすがのお兄ちゃんでもひとたまりもない。


そのことを知ったお兄ちゃんはいつも何かある度には、理由をつけて逃げるようになった。


今回だっていつものことかと思ったけど、ある日のお兄ちゃんの言葉を思い出す。



先月くらいだったか、お兄ちゃんは言っていた。


これから帰りが遅くなると。夜ご飯もいらないと。


学校の知り合いの人の家で、放課後の部活が終わった後に練習をさせてもらうと。


そこで、夜ご飯もご馳走になると。


今日の練習というのも、それの関係なのだとすぐに理解出来た。


けど。



「じゃ、じゃあ、行ってきます!」



認めたいことではないよね。私の楽しみの一つがなくなってしまったから。


お兄ちゃんをいじめるという楽しみが。



玄関の方からお兄ちゃんの声と、扉の閉まる音が聞こえてきた。



「あら。朝ご飯も食べずに行ったわ」



お母さんが呆れたように呟く。



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