獣耳彼氏



俯き気味に歩く。


現実を見るのが怖いから、校門を見ないように。


やはり、弱くなっている。心が。


でも、嫌な弱さじゃないのはなんでだろう。


どこか愛おしいこの心の弱さ。



「真琴。ガンバレ」



ポンっと肩を叩かれ、京子が私を追い越していく。


彼女のその言葉で分かってしまった。


秋月くんは居るんだ。


待っているんだ。



歩く足は止めないで、俯いていた視線をゆっくり上げていく。


校門に凭れるようにそこに立つ人物。


あの夜、最後にある記憶とは異なる姿。


獣耳などない、いつもの秋月くんだ。


そこに居るのは。



「秋月くん…」



彼の姿を認めたことで止まりそうになる足を叱咤して私は歩く。


ただひたすらに秋月くんの元へと目指して。



「マコト」


「お待たせしました。帰りましょ?」



何も変わらない、今までの私のままを意識して。


好きだと言ったことは、とりあえず今は頭の片隅に追いやって。


考えないようにして。


秋月くんが人ではないということも今は忘れて。


私は私のままで。


秋月くんに接しよう。


そう決めた。今、決めた。



「…ああ」



秋月くんの横に立ち歩き出す。



< 93 / 249 >

この作品をシェア

pagetop