獣耳彼氏
俯き気味に歩く。
現実を見るのが怖いから、校門を見ないように。
やはり、弱くなっている。心が。
でも、嫌な弱さじゃないのはなんでだろう。
どこか愛おしいこの心の弱さ。
「真琴。ガンバレ」
ポンっと肩を叩かれ、京子が私を追い越していく。
彼女のその言葉で分かってしまった。
秋月くんは居るんだ。
待っているんだ。
歩く足は止めないで、俯いていた視線をゆっくり上げていく。
校門に凭れるようにそこに立つ人物。
あの夜、最後にある記憶とは異なる姿。
獣耳などない、いつもの秋月くんだ。
そこに居るのは。
「秋月くん…」
彼の姿を認めたことで止まりそうになる足を叱咤して私は歩く。
ただひたすらに秋月くんの元へと目指して。
「マコト」
「お待たせしました。帰りましょ?」
何も変わらない、今までの私のままを意識して。
好きだと言ったことは、とりあえず今は頭の片隅に追いやって。
考えないようにして。
秋月くんが人ではないということも今は忘れて。
私は私のままで。
秋月くんに接しよう。
そう決めた。今、決めた。
「…ああ」
秋月くんの横に立ち歩き出す。