獣耳彼氏
やはり、動悸はいつもより早いけど、それさえ私には心地よく感じた。
いつもと変わらない秋月くん。
きっと、私が言ったことなど、忘れているのだろう。
それなら、それで忘れていてくれればいい。
私としては気が楽になるし。
また、その時が来たら告白し直せばいい。
その時が来るのか、来たとしてもその時の私に告白する勇気があるのかは分からないけど。
気にし過ぎていては、私が参ってしまう。
どちらとも話し出さない、沈黙が二人の間を漂う。
「マコト」
その時、彼の声が耳に届いた。
私の名前を呼ぶ声を。
「何ですか?」
努めて平静を装いたずねた。
秋月くんの足が止まる。
隣を歩いていた私も立ち止まる。
彼が私を見下げている。
見下げているのに、偉そうに感じないのが不思議だ。
「変わりはないか?」
「変わりですか。何に対するものか、イマイチですけど、特には」
「どうか、ならいい」
「…?」
どうしたのだろう。いきなり。