獣耳彼氏
もう一度出会った場合に
「…マコト。走るぞ」
「え?あ、ちょっと…!」
突如、秋月くんが私の腕を引っ掴み走り出した。
大きな既視感(デジャブ)。
あの時と同じ険しい表情を浮かべたまま、彼は走り続ける。
ものすごい速さで何度も足がもつれそうになる。
何とか、転ばないように彼の早さに追いつこう、合わせようと、必死に足を動かした。
「はあ、はあ…」
息が上がる。
それは走っているから酸素が足りていないから。
ではなく、正体の分からない恐怖心からだ。
突如走り出した秋月くんが何度も後ろに視線をやる。
射るような視線で。
私を心配するためではなく、私のもっと後ろの様子を見るために。
何があるのだろうと、振り返りたい衝動に駆られるが、やはり恐怖心が強く振り返ることは出来ない。
「あ、秋月く…」
ひたすらに走り続ける彼に、さすがに追いつけなくなりそうだ。
今まで、ついて走れたことが不思議なほどに、彼の走る速さはとても速い。
人間離れした速さ。
私の持久力を持ってしても、全速力で走っていたら体力は長く持たない。
「も、無理…」
か細い声が漏れ出る。
なんで走っているのか、目的もその理由も分からないから余計に弱い私が出てくる。
「チッ…」
「え?あ、キャッ…!」
今にも止まりそうにだったその時。