獣耳彼氏
ふわりと足が地面から離れたと思ったら、秋月くんの顔が間近に迫った。
端正な顔立ちがすぐそこに。
息遣いが耳元で響いている。
膝裏と背中に回されているたくましい腕。
「あ、あ…あ、秋月くん!?」
お、お姫様抱っこされてる!なんで!?
秋月くんは私を抱き上げたまま、変わらずに走り続けている。
いや、さっきよりも走る速さは上がっている。
私が一緒に走っていた時とは比べものにならないほど。
人知を超えた速さ。
前を見ようにも流れる風が強すぎるせいで目も開けられない。
風から逃れようと顔を背けた先には秋月くんの整った顔。
近すぎる距離にそれもそれで耐えられない。
「目、瞑ってろ」
彼の言葉にギュッと目を閉じた。
暗闇の中で分かるのは秋月くんの走る振動と息遣い、ぬくもりろ香りだけ。
ほのかに甘い香りが私の心をくすぐった。
どのくらい目を瞑っていたのか。
伝わる振動が小さくなり、最後には感じなくなった。
「マコト」
彼の声が近いところから聞こえる。
閉じていた目をゆっくりと開いた。