風神さん。
「それが癖になるんだよ…さぁ、話そっか、僕のこと……」
男の子の瞳が真剣なものに変わるのと同時に、カンナヅキも自然と真剣になった。
「風の字‼︎」
しゃがれた男の声が聞こえたと思うと、突然男の子の顔が発火した。
カンナヅキは思わず悲鳴をあげるが、すぐに男の子の風魔法でかき消された。
「…あっついよ」
しかめっ面でカンナヅキの方を向いた男の子に、カンナヅキはまさか自分がしたと思われたんじゃ、と思い否定しようとすると、先程と同じしゃがれた声が後ろから聞こえ急いでカンナヅキは振り返る。
「ガッハッハッ、風の字がとうとう俺の魔法を上回ったぜ!」
そう言う男は、ピンクの派手な髪に坊ちゃん刈りというなんとも不思議な髪型で、ゴーグルと赤いスカーフを巻いて少しヒゲを蓄えた、一言で言うとファンキーなおじさんだった。
男の子はもとからだし。だなんてまだしかめっ面で言い返すが、男の手にはビールが握られていた。
聞こえないのか、そのまま大笑いをしながら、口から火を吐き出している。
「…火の、魔導師…」
「ネリーはちょっと特別だけどね」
男の子はため息をしながら、アップルティーをもう一度飲んだ。特別、という言葉に引っかかりカンナヅキはまた問いかけると、ネリーは体内にクリスタルを埋め込んでいる、と答えた。
どうしてそうなったかの経緯は、話したがらないらしい。そんな話をしていると、凛とした女の声がギルドに響いた。
「ネリー‼︎あんたまたギルドで火ぃ吐いて‼︎何回言ったら分かるんだ!」
火を吐いていたネリーを大声で叱ったのは、ネリーと同じような髪型をした、女だった。
「姉貴!」
ネリーはばつが悪そうな顔になったが、カンナヅキはひたすら驚いた。
どう見ても、妹か若い奥さんに見えるぐらいの見た目だったからだ。
はりのある肌に少し多い露出のせいか。
「…あら、新人さんかい?」
カンナヅキに気づいた女は、そのままカンナヅキの隣に立って、手を腰にあてがった。足も長く相当スタイルがいい。
「私はレーヌ!てきとうに呼んでちょうだい」
「あ、私はカンナヅキです。カンナって呼んで下さい、」
そう自己紹介を互いに済ませると、レーヌは優しく敬語なんてよしてくれ、と苦笑いした。
姉御肌の性分なのだろうか、カンナヅキは会って間もないにも関わらず何故か安心できた。
男の子は小さい声で、お姉さんそんな名前だったんだ。と小さく呟いたのに気づいて、カンナヅキはカンナって呼んでもいいよ?と言うと、お姉さんでいい。と柔らかく笑った男の子を見ると、やはり何も覚えてないのだ、と改めて確認させられ少し胸が苦しくなった。
「えっ、新人⁉︎」
今度は、大きな声をあげ立ち上がった男がカンナヅキを目線で捉えた。