風神さん。
私はいつも同じところに居る、私と同じ孤独な獣に毎日会って遊んでいた。
その孤独な獣には名前もないけれど、唯一の友達だった。
今日も、孤独な獣に会いにいくと、人影が見えた。孤独な獣と戯れる、上の方に結われた長い髪が見えた。
黒いマントとその長い髪が風に遊ばれ、ただ獣と何者かが戯れている事だけはわかった。
そうっと、私は背後から近づいた。ばれないように、足音を盗んで。
けれども。
あと二、三歩という所で油断していた。小枝を踏んでしまって、音をたててしまった。
すぐさま何者かが私の方へと振り返った。
酷く綺麗な容姿をした、男だった。少しやるせなさそうな瞳が私を捉えた。
「誰」
短い言葉に男は威圧をかける。男に抱かれていた獣は私に気づき、男の手から無理やり抜け出して私の方にかけよった。
いつもなら、村の誰にも見せたことない笑顔をこの獣にだけは見せるんだけども。
眉に固く刻まれてしまいそうなしわをつくり、男を睨む。
「…その子と仲がいいんだね」
男も先程まで私を睨んでいたのに、急に薄い笑みを浮かべる。私を油断させる気かーー。
意図が読めない。
「私の唯一の友達だった。けど」
私は冷然とした態度で獣を私の腕から降ろした。
男は私の言葉の続きを催促しない。
「裏切られた。こいつは、孤独じゃなかった。あなたが居た。私は孤独なのに。騙された」
私は、膝に爪を引っ掛けようとする獣をにらんだ。獣は私の怒りに気づき、おとなしくなる。
「じゃあ僕と一緒だ」
男はそう言った。
私は男を強く睨むのをやめないまま。