風神さん。
「君は、ツキビト族の子?」
ふいに、言われた。私は驚いて何も言えないがそれが肯定となる。
私は、どうして分かったのかわからなかった。
「長い横髪とその、綺麗な緑の髪で思ったんだけど、やっぱり」
私は村の人間しか見たことないし、村の人間は皆緑の髪や髭をたくわえ、横髪を長くして、偉い者ほど横髪の飾りを豪華にしたり、ファッションを楽しんでいる。
それが私の世界の全てだったから、世界はみんなこうなんだと思っていた。
が、お兄さんの言い方ではどうやら違うようで。
「綺麗?」
色んなことを考えてたのに、私の口からはそんな言葉がこぼれてた。
私が、誰かに褒められた事も何もないから。
「とっても、ね。触っていい?」
お兄さんは細めた目で私をまた、捉えた。途端、私はさっきと違うような感情に胸を締め付けられた。
私は二、三度首を縦にふった。
それと同時。強い風が吹いた。お兄さんの姿が消えたのもほぼ一緒。
「やっぱり綺麗だね」
お兄さんの声がしたのは後ろからで、共に髪を弄られる慣れない不快感に肩が思わず跳ねた。
心臓が強く鐘を鳴らすように鼓動を打っているのを感じながら、私はお兄さんの方を振り向いた。
「おどろいた?」
今までとは違った、悪戯っ子のように笑いながら口角をあげている。何故か、目は笑っていない。
私の村にも、一瞬で相手の背後をとる者がいるけれど、カンナヅキには真似出来ないような高度な技術が必要となる。
ちなみに、そんな俊敏な動きができるのは限られた傭兵部族だけだとも聞かされた。
お兄さんは、一体何者なのか。