風神さん。
「僕?僕は傭兵部族なんかじゃないよ。それよりもずうっと弱い存在だよ」
また口だけ笑うような笑みを浮かべた。
「…カンナヅキはさ…」
私に言いかけた言葉を途中で止めて、何か考え事をしている。
途中で止められた話題にむず痒く感じるも、私は言葉の続きを黙って待った。
「カンナヅキって何か言いにくいね…カンナでいい?」
また急に言われた。孤独は辛かったけれども、こうも読めない相手と居るのもこれはこれで辛いかもしれない、と私は半ば思いながら、頷いた。
きっと…いや、確実に私は、少し笑っていただろう。
そんな風に呼ばれるのは初めてだから。
「で、カンナはさ、魔法を知らないの?」
魔法?と私は復唱した。お兄さんは笑いながら、知らないんだね、と言った。
「私は、何も知らない」
その言葉にお兄さんが、どうしてって聞くのは分かっていた。でも、返事に困ってしまった。
この気持ちを、誰にも話したことない。
もし話してしまったら、お兄さんがどこかへ行ってしまうような気がした。
黙って私の返事を待つお兄さん。私はまた痛くなる鼓動を感じながらうつむいていたら、私の膝に獣が顎を乗せて私を見つめてきた。
私の勝手かもしれないけど、大丈夫だって言われてるような気がした。
「私は、村で出来損ないって言われてるから…汚ない血が流れてるって。それで、誰も私に話しかけもしなかった。言葉は、少し、村の皆が私に言う悪口で覚えた」
力を込めた指が土をえぐり、爪の間に泥が入り込む。
「じゃあ僕が教えてあげるよ。何もかも。この世界はもっと広いって事も!素晴らしい、魔法の事も、ね」
口元に笑みを浮かべたお兄さんが、私に右手を差し出した。
その手のひらからは、不思議な事に、小さなつむじ風が現れた。
「世界…魔法」
「そう、君が居る村が世界の全てじゃない。世界にはね、もっと広い考えをした人も居るし、君たちの民族よりも強い人だって居る…」
嬉しそうに話すお兄さんの話を、私はただ聞いた。
いつもだったら獣と森をかけて狩をしていたんだけども、今日はそれはおやすみ。獣だけは退屈そうに寝ていた。