風神さん。


そして、私と村長達の間を挟むようにして現れた男。
私には背を向け、上の方に結われた長い髪と黒いマントをたなびかせている。
先程の声とは違い、私達の言葉ははっきりしたものとなった。

「風神様、なぜ…そんな小娘のためにお姿を…まさか雷神の器とでも⁉︎」

風神?雷神?詳しくは知らないけど、確かツキビト族に伝わる言い伝え…風神、雷神、2対の神様…それ以上は私も知らない。
ただ、お兄さんの名前が「風神」だという事が分かった。

「この子に魔法を教えたのは、私だ」

そう言いながら私の頭を優しくなでるお兄さんの顔は確認出来なかった。

「雷神の器に相応しい全ては教えたつもりだ」

雷神の器…いまこの状況では私が雷神の器という事になるけども。
違うよ。
私の魔法は、友達が私に力を貸してくれる魔法。私を蔑みもしない、優しい、いつもそばに居てくれる友達が。

雷神の器なんて、わけのわからないもののための魔法ではないよ?

「だから、許してはくれないか…村の追放を」

お兄さんは、私をかばってくれているようだった。私の肩に置かれた手が、震えている。
それにしても、何を恐る事があるの。お兄さんと私なら、こんな小さな村に居なくとも、お兄さんが教えた広い世界できっとやっていけるはず。
こんな村、追い出されたってかまわない…。

そう、私は思っているのにどうしてお兄さんはそんなにも怖い顔をして…。

「分かっていないのは、風神様の方ですな…一少女が、それも我々の血を継ぐ小娘が雷神の器になれるほどの強大な力を持つことは…許されざる事態だ」

「そうしなければ、この子は本当の『独り』になってしまうだろう」

長老と、お兄さんは一体何のしがらみにとらわれているの?独り?私が独りになってしまうの?

「…村の追放では済みませんな、これは処分をせねば」

私は二人の会話をぼうっと聞いていたけれど、また私の心臓は大きく叫び出した。

「処分せねば」

その言葉は忘れもしない。幼い私の前で村長が私の母親に言い放った言葉。
この呪文のような言葉は、母親を…。

「私は、お母さんみたいに…」

私の心のどこかが、逃げろと叫んでいた。逃げろ。この場から。さもないと、殺されてしまうぞ。知らないぞ。
そう、私に警告するかのように鼓動はどんどんと駆け足になってゆく。

「大丈夫。君は、僕が護る。絶対に」




< 40 / 76 >

この作品をシェア

pagetop