風神さん。
扉の無い門の向こうに行き交う人々と騒がしさに、カンナヅキは不安と好奇心両方を抱く。
馬車をひいてくれた馬に別れを告げて、男の子の後を追った。
門をくぐれば、噴水が特徴的な広場が目の前に広がる。そこから、広く段の低い階段を登っていけば商店街のような店が立ち並ぶ道が三本、伸びていた。
噴水の周りにはどこからでも見られるような八方に映し出された液晶の魔器が思わず魅入ってしまうような広告を流していた。
噴水に腰掛け休む人も居れば、階段に座って話をしている人も。歩いている人の方が、多いが。
「サザンカもすごく、賑やかよね」
カンナヅキは早くも小さく息を吐く。そんなカンナヅキを見て、男の子は柔らかく笑う。
「もう疲れたの⁇…まだ疲れるのは早いよ、それに今日は一際人が多いみたいだしこれから向かう所はもっと人が多いよ」
カンナヅキはその言葉だけで、疲れそうになる。これよりも、と想像をしてみると今度はため息が出た。
「どうしていつもより多いって分かるの⁇」
この町に定期的に来ているのか、とカンナヅキは考えるが自分なら絶対定期的になんて来たくないと思いながら男の子に質問をする。
頭の中で、依頼なら仕方ないかもだけど。とつけたす。
「今日はここで、さっき言ってた「男女奏」<ウーマンテット>のギルメンの無料公演があるらしいよ、それもかなり有名な「歌姫」の公演だって」
カンナヅキはどこからの情報なのか、と不思議に思っていると、様々な所で今男の子が言った内容が書かれたチラシを見つけた。
有名な「歌姫」と言われてもカンナヅキにはイマイチ、ピンとこないのだがなんとなく納得する。
そして広場の噴水から階段を登り切って、東の方の商店街に向かう。
さすが多くの店が立ち並ぶだけあって、縦にも横にも道は広かった。
しかし、あちらこちらへ向かう人々のせいかそんな広ささえも狭く感じでしまう。
二人は人の間を縫うように前へ前へ進む。
カンナヅキは迷わないように、そっと男の子のリュックの端をつかんでいた。