風神さん。


「ここだよ」

カンナヅキは右にも左にも目を奪われるような店に惑わされながら、男の子とはぐれないようにして歩いていたら、目的の場所に着いたようだった。
二人が止まっても行き交う人々は気にせずに二人をよけ歩く。

商店街の中にあったそのギルドは少しカンナヅキの想像していたイメージとは違った。
手押しの扉の上には品を感じる「男女奏」<ウーマンテット>と書かれた看板が掲げられていた。
二人がこのギルドの目の前で立ち止まっている間にも色んな人がギルドに入って行き、出て行く。

「入ろうか」

そう言った男の子は後に、迷わないようにちゃんと僕のリュック掴んでいてね、と付け足す。
カンナヅキはそっとばれないように掴んでいたつもりだったが、考えてみれば人の間を歩いていたものだからぐねぐねと曲がって居るとどうしてもリュックを引っ張ってしまうタイミングができる。
それでもばれていないと思っていたカンナヅキは、少し恥ずかしくなるが何も言わずに男の子の言葉に従う事にする。

右も左もわからないこんな所で迷ってしまうと面倒くさいことになるから。そう、カンナヅキは自分に言い聞かせるように何回も頭の中で唱えていた。

手押しの扉を開けると、そこは魔器で作られたシャンデリアが照らす豪華なホールだと分かる。
左右には二階へと続く大きな階段があり、ホールの真ん中にある円形の受付を真っ直ぐ突き抜けると、そこで公演するであろう部屋への扉が見える。
広いホールには、公演の時間まで待てるような、無料で飲める紅茶やコーヒー、ソフトドリンが用意されていて、落ち着けるようなソファーとテーブルのセットや、大きなソファーが点々と置いてあった。
二人の居るギルド「天使の誘惑」<ハニーエンジェル>の居酒屋のような雰囲気とは真反対で、依頼書が貼っているような掲示板すらもない。

「涼しい…」

外は多くの人々のせいか酷く蒸し暑かった。魔器のおかげで空調設備の整ったこの建物で、カンナヅキは癒されるようにため息をつき、このまま座ってアップルティーを飲みたい気分になる。
そんなカンナヅキに男の子は、まだ休んじゃだめだよ、と言った後にせかすように、ほら、ほら、と手を引いて歩く。

向かっているのは、このホールの真ん中にある、円形になった受付だった。



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