短編集


立ち上がった晴斗に慌てて、「まだいていいんだよ?」と言うと、結構飲んだからもういいと、財布をポケットに入れた。


「は〜ると〜!もう帰んのかよ〜!」


酔っぱらって、テンションがあがっている市原がグラスをカラカラと鳴らしながら晴斗を引きとめた。


「お前も、もう帰れよ?」


呆れたような目で市原に言うと、市原は「へいへい」と軽く流しながらまたグラスを傾けた。


「行こ」


短くあたしに告げた晴斗の後ろを続いて店を出た。





「何で帰るの?」


外は少し雪が降っていて、店から出ると晴斗は寒さのあまり唸り声をあげた。
そんな彼に帰宅手段が気になったあたしはマフラーをかけながら尋ねた。

「んー、タクシーで帰るかな?近くの駅まで」


「あたし送ってこうか?」


何の気なしに放った言葉に晴斗は「いや、遅いし悪いから大丈夫。ありがと」と、お酒のせいか少し赤くなった顔で笑った。


「そう?」


もう少し一緒に話せるかと淡い期待を胸に抱いていたあたしは少し悲しさが心に積もった。
もう、恋人じゃないんだ。
彼女でもない人に心配されても困るだけだ。

自分に言い聞かせるように、目をほんの少しの間だけ伏せて、また晴斗に向き直った。

「じゃあ、これで」



もう二度と会わないかもしれないし、明日偶然会うかもしれない。
そんな確実ではない関係性の今の自分達。


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