短編集
溺愛シンドローム
「けーすけっ♡」
まただ・・・。
廊下で後ろから自分の名前を呼ばれて、あからさまに顔を歪めてしまった。
倉木 恵介(くらき けいすけ)、高校2年生。サッカー部所属でキャプテン。
俺には小さい頃から一緒にいる幼なじみがいる。
俺の名前を呼んだ幼なじみの名前は、島田 紬(しまだ つむぎ)、俺と同じ高校2年生でクラスも一緒。
ただの腐れ縁でそこまで関わりが無かったら、俺だってこいつの呼びかけに嫌な顔はしなかった。
なんで俺がこの容姿が整っていないわけじゃない、むしろ皆の人気者の幼なじみを邪見に扱うかというと・・・
「・・・なんだよ」
「きゃーっ!なあに?そのふてぶてしい顔!!」
顔に手を当てて、わざとらしく悲鳴をあげたこいつのテンションについていけない俺は会話というコミュニケーションを放棄した。そんな俺の態度にお構いなしに、自分の鞄をゴソゴソと漁りだした。
「・・・」
「折角、あたしが恵介の忘れたお弁当持って来てあげたのに〜」
じゃじゃ〜ん!と大きなアクションで目の前に見慣れた自分の弁当を差し出したそいつに、俺は焦って素早く弁当を奪った。
「なっ・・・!?おまえっ、そういうのはコッソリ渡せよ!!」
「え〜?なんで〜?」
意味分かんないとでも言うような表情の島田。
「お前がこういう風に弁当渡すところを他のやつが見たら、付き合ってるとか勘違いされんだろっ!」
そう・・・俺が邪険な態度をとる理由。
それは、この幼なじみが俺にベタベタとくっついてくるせいで、周りから冷やかされるからだ。
そんな俺の気持ちを理解しないこいつに俺は長年苦労してきた・・・。