短編集
「それで?今はどこにいるの?○○の駅?」
それでも、必死に本心を悟られないようにと未だに平静を保とうとしているあたしは、そちらに向かうという意思をさりげなく伝えようと居場所を聞いた。
『そう。・・・ごめんな。こんな暗い時間に運転させるなんて危ない事させて』
ポツリ。と本当に申し訳なさそうに放った言葉の意味を都合よく解釈してしまう悪い耳。
まるで、あの頃みたいに優しくされている錯覚に陥り、自分を見失いそうになる。
別に、今は特別優しくしてくれてるんじゃない・・・。
晴斗は皆に優しいから、こんなことで浮かれてちゃいけない・・・。
携帯を握りしめながら、自分の気持ちを上手くコントロールして会話を進める。
「大丈夫だよ。今からそっちに向かうから、寒くないところで待ってて?」
ああ、なんて自分はお人好しなんだろう。
あんなに過去で裏切られたのに。
未練ばかり残っていて、離れる覚悟なんて決めたようで決めてないもの。
いつも面影ばかり追い続けて、晴斗は進んでるのにあたしはあの日のまま時間は止まっている。
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「行くのか?」
あんなに、関係ない素振りを見せていたはずの市原は、あたしが会話を切り携帯を返すと気まずそうに白々しく聞いた。
「ほんと、気の利かないやつ!」
あたしは、冗談まじりで市原に悪態をついた。
それは、精一杯のつよがりで、今の自分の感情を隠すための表面上のやりとりだった。