短編集
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「ごめん!今からちょっと○○駅まで行ってくるね」
先ほどまで座っていた女友達のいる席に荷物を取りに行くがてら、一言告げた。
「○○駅?なんでそんな遠くに?」
一人の友達が至極不思議そうに問いかける。
その問いに、少し躊躇したものの、ここで答えない方が不自然だと思い正直に話した。
「は?!晴斗って、あの晴斗だよね?」
やっぱり。
想像していた通りの反応。
友達はあり得ないとでも言うような口調で食い入るように聞いてきた。
そして、もう一人の友達の反応もあたしは見落とさなかった。
気まずそうに目を背け、まるで悪い事をした子供のようにばつの悪い表情を周りに悟られないように静かに見せた。
あたしはその反応に気づかないフリをして、苦笑いで強い口調で問いただす友達の方に返した。
「でも、ほら。やっぱ可哀想だし・・・」
「はあ・・・。」とため息をつきながら呆れたように首をうなだれて、友達は「行って来い」とでも言うように、手を振った。
騒がしい、店内から外に出て駐車場に停めてあった黒い7人乗りの愛車に乗り込み、エンジンを点けると、すぐに暖房を強くした。
今は年末前の冬時。
外にはチラホラと雪も舞っている。
寒空の下、待っているだろう彼の事を思い、車内を暖かくして静かに車を発進させた。