短編集
「じゃあ、行こっか」
もうすでに同窓会が始まってから時間がかなり経っていることから、すぐに行かなければ自分も晴斗も着いてからの滞在時間が少なくなってしまうと考え、駅を出ようとした。
しかし、そんなあたしについてくると思っていた晴斗は俯いたまま立ち竦んで歩き出そうとしなかった。
「どう・・・したの?」
ここまで来て、まさか行かないというつもりだろうか。
恐る恐る近づき、顔を覗き込んだ。
その表情は複雑で、何かを噛み締めるような切ない顔だった。
「ははっ。可笑しいよな、ここまで来てまだ怖がって・・・」
はっ・・・。
思わず息をのんでしまった。
空笑いで本心を誤摩化すような晴斗の気持ちが何故か分かってしまった。
人は、何で分からなくていいことを分かってしまうのだろう。
あれから、数年も経っているのにも関わらず、私たちの胸に絡み付いて取れない。
あれは、丁度この時期だった。
ーーーーーーーー最愛の恋人と親友が裏切った過去。
それは、あたし自身にも。そして、仲の良かった親友の恋人にとっても最悪の結末だった。
そう、この同窓会はその最悪の物語の役者が集まったステージだった。
もちろん、居酒屋にはすでにあたしの親友の祈(いのり)と今でも付き合い続けている桜木というあたしの親友でもある祈の恋人がお酒を飲みながら会話を楽しんでいる。
桜木は晴斗が来ることを知ってはいないが、祈は先ほど居酒屋を出るときに伝えていたから知っているだろう。
晴斗はこの4人が同じ席にいるという事に恐怖心を抱いているようだ。
しかし、桜木は過去の事だからと今では割り切っていて、その広い心で祈の過ちも目をつぶっている。それでも、恐怖を抱くのは多分周りもあの過去を知っているというからだろう。
当の本人達よりも周囲の人間の方が案外記憶に鮮明に焼き付かれてるものなのかもしれない。