短編集
「みんな・・・待ってるよ?」
声が震えそうになった。
過去は過去でしかないんだから。今はどうする事もできないし、ここで立ち止まっていても仕方のない事。
でも、ハッピーエンドで終わった訳じゃない恋は未練という形で心の中に沈んでいる。
強く、握りしめられた彼の手を静かに取り自分の手で包むと、血がうまく巡っていないのかとても冷たかった。
「・・・奈々瀬はなんで怒らないんだよ」
悲しそうな目があたしの目を見てぽつりと言葉を紡いだ。
やめて。
そんな顔をさせるためにここに来たんじゃない。
「もう、過去のことだよ。今更怒ってもどうにもならないでしょ?」
悲しいこの空気を少しでも変えたくて。
無駄に元気っぽくやれやれ、と手を振って必死に和ませようとした。
もう、何も未練なんてこれっぽっちも残ってませんよ、とでも言うように。
「そうかもな。俺だけこんなに神経質になってるのかもな」
少しだけ笑ってみせた晴斗に「そうだよ!」と呆れたように冗談っぽく返す。
そうだよ、君は分かってない。
一番みじめな役者はあたしなんだ。
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「やっぱり、やめようかな・・・」
「何言ってんの。ここまで来たら腹くくりなさいよ」
「なんか、奈々瀬逞しくなったね」
「それどーいう意味?」
居酒屋についてもまだウジウジしている晴斗。20分というあっという間の移動時間の中で随分、昔の雰囲気を取り戻したあたし達は前のように冗談を言い合った。