死せぬ者
戦乱
此処は人間と鬼が住む世界。

人間といっても“魔法使い”や“幽霊”などと種族は様々だ。

鬼もまた、様々で、“妖怪”や“鬼神”などといる。

その中でも“吸血鬼”と呼ばれる種族がいる。

一般には“血を吸い、獲物を殺す”とされているが、血を吸わない吸血鬼もいる。

“現在、人間軍がこちらに侵攻。北軍は防戦、特攻部隊は攻めよ。”
「御意。」
通信機に合図を送ると、男は歩み始めた。
「“特攻部隊”ねぇ。」
傍らで頭の後ろに手を組みながら男がぼやく。
「ただの単独行動部隊であって、そんな華やかなものでない。つまんねぇ。」
「アドロフ。命は大事にすべきだぞ。」
「——それで、手始めにあの軍を足止めするんだが、俺ら2人でどうすんの。他の部署呼べば?」
その言葉に男は不敵に笑む。
「俺を誰だと思っている。」
その眼は何処か、此処ではないところを見ていた。

現在、人間と鬼は諍いを続けていた。
少なからずとも、共存の意思を持つ者も居るのは暗黙の理解だが、戦である以上は無差別にお互いの種族を排除していた。
滅んだ村や、あるいは国がいくつもある。

「ミーシア将軍に続けー!!」
「人間、か。」
鬨を上げる方を男は見る。
「さぁーって、行きますか。」
ゆったりとアドロフが構える。
その横を男は横切る。
鋭い爪を構え、牙を剥き、人間の軍へ向かった。
「一人で何ができる!!」
嘲笑の声にも耳を傾けず、切り裂き、喰らう。
やがて、嘲笑が悲鳴に変わる。
アドロフは逃げ出す者を逃がさないように食い殺す。
男は尚も刃向かう人間を殺した。
「ば、ばけもの……!」
怯える人間を男は見下ろす。
「それで、何だ?」
そして、最後の一人に止めを刺した。

残ったのは朱い大地だ。

後に着いた軍がその大地を踏み、進む。

アドロフはつまらなさそうな表情をする。
「あのさぁー、この部隊は他にもいくつかあって……どれも、軍を誘導する為の突破口って感じだよな?」
「それが何だ。」
「フツー、手出しする前に軍に連絡入れるだろ。」
「ふん、あの程度、俺一人で充分だ。」
男は意に介さない。
「へぇー、あれか。俺はいらねぇってか。」
拗ねるアドロフの頭を男は叩く。
「そうではないと知ってて言うか。」
「……む。」
アドロフは男を睨む。
「叩くことねぇだろ。」
「?」
男は瞬きをする。
「……撫でたつもりだが。」
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