ひつじとライオン
「用事ってそれだけ?」
呆れ半分、予想通りという気持ち半分で、目の前にいる女『ミホ』を見る。
ミホは満面の笑みで頷く。それは満足気だ。
「だって、呼び出さないと会いに来ないでしょ?やれカラオケだ、やれゲーセンだ、ってどっかに行くでしょ?」
ミホはそう言うと塗りたてだという赤の爪に息を吹きかけた。
はぁ、と小さくため息が落ちていく。
「じゃ帰るわ」
部屋に入ったというのに座ることもなく、滞在時間数分で俺は別れを口にした。
ミホは「はぁ?」と引きとめようとしてくるが、コイツはこの後出掛けるのだ。俺がいる理由はない。
部屋を出て階段を下りる俺の背後に飛んでくる言葉、それは、
「浮気したら刺すからね」
いつものもの。