ひつじとライオン


それまでいそいそと先を進んでいたくせに、その姿を見つけると歩みを普段のペースに戻す悟。
それはその女が好みじゃないとかではない。後姿しか見えないのだからそんな判断は出来ない。
多分、かっこつけてるだけだ。
見に来たんじゃないですよアピールだ。
別に相手だってなんとも思わないだろうにな。


「すいません、この人……」


一歩一歩近付く度にクリアになる声。言葉。
紙を見せて聞いている。どうやら人探しでもしているらしい。


そしてその順番は俺らに回ってきた。
別に待ってたわけじゃないけど。


「あの!すいません、この人知りませんか……?」


何人に聞いたのか、その女子は少し疲れてるようだった。
いや、好奇の目に疲れたのかもな。


聞かれたのは悟。
つられて俺も差し出された紙を見る。


一瞬の沈黙。
そして、俺らはハモる。


「いや、知らない」



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