ひつじとライオン


「あ!違います!この絵と似てるとかじゃなくて!私、見たので」


そう言うとその女は紙をぐしゃりと潰して鞄の中に突っ込んだ。
それが俺の似顔絵だと思うと、なんだか可哀相。


「この前、私の友達が助けてもらったんです」

「友達……?」

「はい。あの、ハンカチを借りて」


スパーンと思い出すのは浮かび上がった自転車の後輪、花壇に突っ込んだ女。


「あ!あの?」

「そうです、あの!」


そういえばあの時、誰か駆け寄ってきてたな。
そうか、それがこの人か。


「一瞬しか見えなかったからアレだけど。でもこうして見たらばっちり思い出しました!」


その女はそう言うと満面の笑みを浮かべて、「あー良かった」と息を吐いた。


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