忠犬カノジョとご主人様
そう言って、ソラ君は、私の頬を抓った。
私は、ソラ君が言った言葉を、何度も頭の中で反芻した。
言い返す……?
嫌いにならないから……?
ソラ君は、私のことを、ちゃんと好きでいてくれているの……?
ぽかんとした表情で見上げていると、もっと強い力で頬を抓られた。痛い。
「大体、俺はあの質問に答えた時、クルミからのツッコミを待ってたのにスルーだし……」
「え!?」
「私は犬じゃないですけど、くらいのツッコミがくると思ってたのに」
「なにそれ分かりづらいよ!」
「えっ」
「えじゃないよ!」
「今日だって残業してるって言うから俺が手伝って3秒で終わらせてやろうと思って向かったら男と暗がりの中2人でいるし」
「な、それはっ…、ていうか来るならそうと言ってよ!」
「心の中で言った」
「伝わるかっ」
「あと誕生日おめでとう」
くいっと急に腕を引っ張って、ソラ君が私を起こして、箱を私に押し付けてきた。
「え」
もう、色々急展開過ぎて何が何だか分からないよ……。
戸惑ってその小箱を見つめていると、ソラ君が開けてみてと急かした。
ので、開けてみた。
中には、美しく輝くシルバーリングが入っていた。
「え、これ…」
「婚約指輪」
「へ」
「クルミ、俺は、仕事かクルミどっちが大事かって言われたら正直微妙な所だ」
「なんで今このタイミングでそれ言うの!?」
「でも、クルミが大切だよ。人間嫌いな俺が大切な人って、相当だよ」
「に、人間嫌いなんだね……」
「それをクルミは分かってないんだ」
「分かんないよ、分かるわけないじゃん、何も伝わってないよ!」
「なんでだよ、俺はクルミが録画してくれてたドラマ有り難く見てるし既に4話待ち遠しいし最近クルミが寂しそうなのは観葉植物が枯れたからかなと思って今度は枯れなそうな強そうなやつ買ってきたし」
「本当だなんかでっかいの増えてる!! ていうか色々と初耳だよ!」
「食べきれなかった手料理は次の朝全部食べてるし、今日だってお店予約してた」
「なんで言ってくれないの!?」
「サプライズってそういうもんじゃないのか」
「なんなの本当!?」