忠犬カノジョとご主人様
まあ実際こっちに来てみて、そんなに何もかもが楽に上手く行くわけでは無かったのだけれど。
「最近仕事どうよ? 保険会社も大変だろ」
「まあ……部署が営業じゃないだけマシかな。営業は性に合わない」
「でもお前がいるところ一番恨まれる部署じゃん」
「それはどうってことないよ。仕事だからね」
「その精神力俺にくれよ……、最近彼女にも冷たくされて俺の心はズタボロだよ……」
須玉は胸をおさえて気持ち悪い泣きまねをした。
須玉とは高校が一緒で、大学も同じだった。
ちなみに俺が日本に来て一番最初に知らない単語を教えてくれたのは須玉だった。
“ぼっち飯”って言うんだぜ、そういうの!
一度も話したことのない俺にあのセリフを言い放ったこいつも、一体どんな精神構造をしてるのだろうと疑った。
因みに俺のことをソラと呼び出したのもコイツで、そのおかげで俺の下の名前は全く誰にも知られていなかったと思う。
「ソラは彼女と上手くいってる?」
「なんか怒ってたけど、別れてないよ」
「どういう返答だそれは。お前また無神経なことしてクルミちゃんのこと怒らせたんだろ!」
「サプライズの仕方を間違えた」
「何したんだお前……」
「まあこっちも、別な意味でサプライズだったけどね」
「え?」
「もう行くわ」
俺は煙草を灰皿に押し付けて、喫煙所をあとにした。