忠犬カノジョとご主人様
「あっ、これは」
「2人には2人の絆があるのに、僕なんかがとやかく言ってしまい本当にすみませんでした」
「そんな! 八神君の言ってたことは正しかったよ」
「海空さんにも直接謝りたいです……」
「いいんだよ、あの人基本どっか捻じれてる所あるしあんな人と会話したら八神君が汚れちゃうよ!」
「はは、なんですかそれ。今日とか一緒に帰らないんですか? 海空さんと」
「まさかっ、一緒に帰ったことなんて無いよ」
「そうなんですか?」
だってソラ君とは仕事が終わる時間も違うし、ソラ君は私と2人でいるところを誰かに見られるのを嫌がるから……。
別に今更そんなことどうってことないし、全然へっちゃらなんだけどね。
「先に家に帰ってご飯作ってる感じですか?」
「うん。先に家に帰ってソラ君のご飯をつくって洗濯物をして観葉植物にお水あげてドラマ録画してアイロンかけてる感じかな」
「それもう家政婦じゃないですか!?」
「えっ」
「えっ」
八神君が予想以上に驚愕したことに驚愕した。
え、私なにか変なこと言いました……?
青ざめている八神君を見て、私はただおろおろとするばかりだった。
「海空さんは、その分双葉さんになにか返してくれるんですか……?」
「あっ、最近はね、3日に1回一緒に夕飯食べてくれるようになったの!」
「な……」
「あの仕事命のソラ君が、私のために時間作ってくれるなんて夢みたい……!」
「……そ、そうですか。双葉さんが幸せならそれで……」
「うんっ、すっごく幸せ!」
そう言うとなぜか八神君は目頭を押さえて押し黙ってしまった。目にゴミでも入ったのかな?
私は不思議に思いながら、その日の業務に取り掛かった。
ソラ君の第一印象は、“漫画から出てきたような人”だった。
スペックも外見も何もかもが並み以上で、キラキラしてて、自信に満ち溢れてて、まさにモテるために生まれてきた人。
入社前の、初めての同期の飲み会で既にソラ君のことを知らない人はいなかった。
同期のLINEのグループができた時、きっと殆どの人がソラ君を速攻で友達に追加したであろう。
ソラ君のTOP画は自分の顔じゃなくて、なぜかぶれたイルカの画像だったことがなんだか少し笑えた。
私もイルカが大好きだったから、何だかその時絶対この人と話してみたい! という気持ちになったことを今でも覚えている。