忠犬カノジョとご主人様
もう何もあかりがついていないカフェを2軒通り過ぎて、坂を上った。
時折タクシーが通って、私達を照らした。
3月の風はまだ少しだけ肌寒く、春が来てほしいような、来てほしくないような……そんな気持ちにさせた。
「王子……間違った海空さんは、社会人になるの不安じゃないですか?」
「不安ですよ」
「え」
「なんで驚くんですか、当たり前じゃないですか」
「そ、そっか、そうだよねえ……」
あはは、と笑うと、王子は同じように笑った。
この人、笑うタイミングとか、頷くタイミングの判断に長けているな。本当に。きっと人見知りなんてしたことないんだろうな。
自分に自信が全くない私とは違う……、王子はやっぱり私とは別の星に生まれた人間なんだなあ。
「何か俺に質問したそうな顔してますね」
「あの、どこの星で生まれたんですか?」
「一応地球という星の日本では京都に一番長く住んでたかな」
「休日は何してるんですか」
「ドラマは良く見てるよ」
「予備校どこ行ってました?」
「そろばん塾」
「え!? 凄い私も小学生の頃行ってて」
「うっそー」
「………」
「いつやるの今でしょ塾」
「えー、一緒だあー!」
「まあ俺の場合殆どいつ寝るの今でしょって思ってDVDとめて寝てたけどね」
「あはは」