忠犬カノジョとご主人様
私が本当に楽しそうに笑うと、ソラ君もにこっとしてくれた。
まさか王子と一緒に坂道を上って、こんな風に二人きりで話せることになるなんて……ああ神様ありがとうございます。
私は天に感謝の気持ちを捧げた。
「あ、そういえば俺の家ここなんだけど双葉さんはー……」
「え」
バタ。
神様にお礼を言っていたら、突然目の前で穏やかに笑っていた人が視界から消えた。
いや、違う。目の前で倒れた。
「え!? ソラ王子!? え!?」
慌てて駆け寄って肩をゆすった。
すると、規則正しい寝息が聞こえてきた。
「寝て、る……?」
そう言えば飲むとすぐ眠くなっちゃうから、と言ってカラオケオールを断っていた。
でも眠くなるの限度を超えていないかこれ!?
え、ていうかどうしようどうする!?
とりあえずソラ君の家はわかったけどどうやって運ぶ!?
「そ、ソラ君、ごめんなさい!」
私はそう言ってからソラ君の鞄を物色しキーケースを発見してから、ソラ君をおぶって引きずりながら運んだ。
因みにこれがソラ君を引きづった初めての日のことだった。
エレベーターで4階まであがり、勝手に漁って取った鍵で勝手に人の部屋に入る……。
同僚をストーキングした挙句勝手に部屋に侵入って……お巡りさん呼ばれても何も言えないわ……。
「お邪魔します……ハア…ハア」
私の体力はすでに限界だった。
なんとかソラ君の靴を脱がせてベッドまで運んだが、そのままパタッと一緒に私も倒れこんだ。
「こ、腰が……」
ううう、と爆睡しているソラ君の横で唸った。
ソラ君の部屋はブラウンと観葉植物でシンプルにまとめられていて、掃除は隅々まで行き届いていた。
ベッドはセミダブルでとても大きく、ソラ君はお金持ちなのだと確信した。
今この状況がとてもありえないことだとは分かっているのだけど、私も今更お酒がまわってきて、判断が追いつかない。
なによりまず呼吸が整ってない……体力相当落ちてるんだな私……。
しんとしたソラ君の部屋で、大きな窓からさしこむビルや街灯や月だけのあかりを頼りに、ベッドの上で大の字で二人で寝転がっている。
この状況は…なんだ……? どう攻略すればいいんだ……?
私は乙女ゲームでも体験したことのない状況に、必死に脳を回転させた。