忠犬カノジョとご主人様
「ん……」
「あ」
「あれ……双葉クルミだ……」
ぼうっとした表情のまま、ソラ君が私を見つめた。ソラ君はたぶん、もう既に同期全員のフルネームを覚えている。
ソラ君の意識がしっかりしていないからか、私も酔っているからか、さっきより緊張せずにソラ君と話せる気がした。
もししらふでこんな状況だったら私鼻血噴いて出血多量で病院に運ばれてる。
「あー、もしかして」
「そうなんです海空さん急に寝ちゃ」
「俺ヤっちゃった?」
「は……?」
「あ、良かった未遂か。じゃあおやすみ」
「ちょ、ちょちょちょ待てい!」
待って!?
今王子なんて言った!? しかも今の言い方慣れてるっぽくなかったか……!?
もしかしてこの人酔った勢いでそういういことしちゃう系の人なのか……私が大学で幻滅してきたあいつらと一緒なのか……。
さーっと一気に自分の中で勝手に描いていたイメージが崩れ去っていくのを感じた。
そ、そうか、そうだよなモテるもんねこの人そりゃそうなのかもしれないけどさだけどさあ嫌全然納得できない無理。無理無理無理。
私は頭の中で一人で忙しなく突っ込みをいれた。
「え、もしかしてやっぱりヤッちゃった?」
「ヤってないです!!」
「なら良かった……、俺酔っぱらうと1人で勝手にドイツ語で話し出すらしくてさ……」
「……は?」
「あれ、そう言えばなんで双葉さんここにいるの?」
「今更!?」
え!? 何この人!? 天然!?
ていうか勝手に勘違いして軽蔑してしまったことへの罪悪感で胸が痛いんですけど!?
驚きで急に酔いがさめてきた。
私は慌てて起き上がり、ベッドから飛び出た。
「すすすいませ、決して寝込み襲おうとかしてた訳じゃなく、ソラ王子がさっき急にばたっと寝倒れてしまったのでここまで運んだ次第で……」
「え」
「ごごごごめんなさい今すぐ出ていきます」
「大丈夫だった!?」
「え」
ソラ君はベッドから飛び起きて、大声を出した。
「酔って変なとこ触ったりしなかった!?」
びっくりした。ソラ君でもこんなに焦った表情するんだと思った。
私は驚いて声が出ず、首を一生懸命横に振った。
「怪我は? 重かったでしょ」
「だ、大丈夫ほんとに!」
「ごめん、俺時間差で急に酔って眠くなるんだ……、もう家に着くと思ってすっかり油断してて……」
「そうなんだ、良かったその時一緒に入れて……」
「ごめん……、ほんとに」