忠犬カノジョとご主人様
ソラ君は謝りながらも、ほっと胸をなでおろしていた。
こんな王子を勝手に勘違いして軽蔑してしまった自分を殴って川に突き落としてやりたいと思った。
むしろ汚れてるのは自分じゃないか……。私は頭を抱えた。私はなんてクズなんだ……。
しかしそれ以上に、ソラ君は落ち込んでいる様子だった。
「……こ、こういうこと、良くあるの?」
「今まで宅飲みの時はよくあったけど、外では初めてだよ」
「宅飲みよくするんだね」
「いや、本当はしたくないよ……コールとか訳わかんないし……」
「え」
「酒は冷蔵庫の前で1人でちびちび飲む方が好きだよ。休日はどこにも出かけたくないしずっと家で深夜ドラマを観ていたい」
「……お、オール断ったのってもしや……」
「そうだよ、大勢で酒飲んで歌って朝を迎えることに体力的精神的限界を超えているからだよ」
「なんか涙出てきそうなんですけど……」
「学食は基本ぼっちだし履修も友達と相談したことないしまず大学に友達1人しかいないし」
「やめてもうやめて!! 辛い!」
「サークルにはいくつも誘われたけどあれはなんだ……? そんなに人を煽って酒を飲ませることが好きなのかこの国の大学生は……?」
ソラ君はベッドの上で体育座りをして身を震わせていた。
私はそんなソラ君のギャップ祭りに涙が止まらなかった。
「でも俺は思ったね、こんな奴らよりはるかに良い所就職して稼いでやるって……」
「…そ、ソラ君……」
「1人で冷蔵庫の前で飲みながら俺はその野望を抱き続け就活してたよ」
根暗だ……。この人根暗だ……。
私の脳内でリク先輩のイメージ画がガラガラと音を立てて崩れ去った。
だけどそれは、決して悪いイメージになったわけじゃなく、やっと殻が剥けたというかー……
「そ、ソラ君!」
「うわあそのあだ名久々に聞いた」
「あの私っ、ソラ君ともっと御近づきになりたいのですがっ」
「……それはつまり」
「よ、予想ですけど、ソラ君のことめちゃくちゃ好きになっちゃう気がします」
「そうかそうか」
「そうかそうか!?」
ソラ君は表情をまったく変えずにそう答えた。
私はショックで倒れそうだった。
え、今私人生で初めて告白まがいなことしたのに……。