忠犬カノジョとご主人様
「ようこそ我が部署へ、今日は楽しんで行ってね!」
今年で3度目の新人歓迎会。
私は自分が新人だった頃の歓迎会を振り返りながら、祝杯を交わした。
八神君たちはまだ先輩にだいぶ気を使ってる様子だが、この機会に色々な話を聞きたいと言っていた。
お座敷の部屋を貸し切って、総勢20名での大宴会。
部署のほとんどの人が参加しているから、運ばれてくる料理の数も半端じゃない。
私は店員さんから料理を受け取りひたすら取り分けていた。
八神君は俺がやりますよと何度も言ってくれたけど、今日は新人君がメインなんだからいいよと笑った。
ここにいるほとんどの新人が、まだ期待と不安で情緒が安定していないだろう。
研修期間が終わることに脅えている子が、殆どなんじゃないかな。
どの部署があたりとかはずれとか、どこが給料良いとか悪いとか、どの上司が怖いとか優しいとか……。
3年前の私も、同じように不安だった。
なんだか新人を見ると何もかもが懐かしくなって、頑張って、という思いでしめつけられて胸がキュッとなる。
多分、最初に経験した苦労を一緒に思い出すからだろうな。
因みに言うとこの部署は比較的女性が多いから、男性は少し肩身が狭いかもしれない。
「双葉さん、色々ありがとうございます」
「えっ、なにが!?」
「新人のくせにドリンクオーダーとかまかせちゃて……」
「ほんとに気にしないでよー、八神君レモンサワー好きなんだね」
「はい、安い白ワインやウィスキーをCCレモンで割ったりとかしても美味しいんですよ」
「へえ、今度やってみようー!」
「ぜひぜひ!」
そんな風に偶然隣になった八神君と他愛もない話をしていると、1人の同期がこそこそと部長に何かを耳打ちしていた。
どうしたんだろう、と不思議に思っていると、部長は一瞬驚いたような顔をして、頷いた。
そして、同期が誰かを呼びに行った。
部屋はとても賑やかだから、その様子に気づいているのは私と八神君くらいだった。
「誰か来るんですかね」
「ね、たまたまこのお店で飲んでた他の部署の人とかかなー」
たこのから揚げを口に運んだその時、部長に一番近いふすまが開いた。
入ってきたのはソラ君の部署の柳部長とー…
ソラ君だった。
「え」