忠犬カノジョとご主人様


ソラ君は私の部署の部長に頭を下げて、お得意の仕事スマイルであいさつを交わしていた。

八神君は小さく海空さんだ、とつぶやいた。

そうだった、この2人は同じ大学だったんだ。

あんまりソラ君と仲良くできる人は少ないから、新密度については深く突っ込まないでおこうかな……。

私はなんとなく気まずくてソラ君から目を逸らした。あんまり会社で接触するのは(ソラ君にとって)よくないから。


「はあ~海空さん今日も顔だけかっこいい……」

「クルミ行かなくていいの~?」

「ねえねえ結婚とか考えてるの?」


しかし、既に少し酔っぱらってる同僚が、ソラ君ネタでいじってくる。

や、やめて……そ、ソラ君に聞こえちゃうじゃないか……。

私はひたすら苦笑いをしながら彼女たちの質問攻撃を流した。

すると、突然手に何かが触れた。

八神君の手だった。


「え……」

「双葉さん、ちょっと仕事で聞きたいことがあるんですけど……、ちょっとここじゃあれなんで、外行けませんか?」


私が返事をする前に、八神君が私の腕を引いた。

ソラ君の視線なんか気にしてる暇もなく、私は八神君に引かれて外に出た。



外にある喫煙所の前まで来た。

少しあたたかい春の夜風が私と八神君のつないだ手を撫でた。


「すみません、急に……」

「ううん、いいの、助かったよ!」

「でもちょっと強引過ぎました」


八神君は、ゆっくりと私の手を離して、少し笑った。

八神君はあの場で困ってる私を、連れ出して助けてくれた。

本当にいい子だなあ……。どっかの誰かとは大違い。

くりっとした大きな瞳、笑うと出る八重歯、中性的な顔立ちで、笑うととても幼くなる。

顔のタイプも正反対……。


「八神君はきっと年上にモテるタイプだね!」

「えっ、なんですか急に!?」

「皆に愛される顔してるよね」

「え」

「乙女ゲームには欠かせない年上キラーキャラだね!!」

「オトメゲーム……?」


八神君は頭の上に疑問譜を並べていた。

そんな八神君がすこしおかしくて笑ってしまった。

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