忠犬カノジョとご主人様
「はは、そりゃ分からないよね」
「すみません、勉強不足で……」
「いやこんなこと勉強しなくていいよ」
「そ、そうですか」
「ていうかどうしよう、そろそろ戻る?」
「え」
「あんまり長いこと抜けてると、あれだよね」
「そうですよね、海空さんいますしね」
「いや、そういう意味じゃなくて八神君がー…」
そこまで言うと、急に八神君の表情が真剣になった。
そして、一歩私に近づいてきた。
中性的で可愛い系の八神君だと思ってたけど、こうして見ると八神君は身長が高い。
なんだか急に八神君が男に思えて、私は少し戸惑った。
困惑した表情で八神君を見上げていると、肩に八神くんの手が乗った。
「え」
「あの、もし良かったらなんですけど、今度一緒に飲みに行きませんか」
「え、全然良いよ。何人くらいで?」
「いや、それは俺と双葉さん」
「と、双葉さんの同期の吉田さんと飯野さんと篠塚さんの5人だよね」
―――突然、八神君じゃない声が聞こえた。
バッとお店の入り口方面を振り返ると、そこには煙草を不機嫌そうに吸ってるソラ君がいた。
「仕事の相談なら、なるべく色んな人の意見を聞いた方が良いしね」
「……海空さん、お久しぶりです」
「久しぶり、八神タケルくん」
この2人のツーショットを見て私は一瞬で2人の関係を把握した。
この2人……仲良くない……!!!
なんだろう、2人の間に稲妻すら見える。バチバチしてる……。
「確かに色んな先輩のお話を聞いた方が良いですね。海空さんも色んな人にこの時期相談したりしたんですか?」
「いや、とくに。仕事で悩みとか無かったし」
「さすがですね」
「君も仕事熱心だね。こんな風に1対1で上司に悩み相談したりして」
え、何これ……。なんなんですかこれは……。
仲、悪すぎでしょ……。
過去に一体何があったんですかこのふたりに……。
居心地の悪すぎる空気の中、私はただ耐えることしかできなかった。