忠犬カノジョとご主人様
「クルミ」
「え、はい!」
「ちょっとこっちおいで」
「え、ぎゃ」
おろおろとしていると、急にソラ君に呼ばれた。
言われたとおりソラ君の近くに行くと、いきなり両耳を手で塞がれた。
物凄い力で押さえつけられたので頭が割れそうになった。そして何も聞こえなくなった。
え!? なに!? なんなのソラ君!?
混乱している私なんかに構わずに、ソラ君たちは何か会話をしているようだった。
「悪いけど、ちょっかい出さないでね、この子に」
「……誕生日、ちゃんと祝ってあげたんですか? 泣いてましたよ、双葉さん」
「あの時一緒にいた男、やっぱり八神君だったんだね」
「双葉さんのこと、家政婦みたいに扱ってませんか?」
「忠犬だとは思ってる。家政婦だとは思ってない」
「その言葉にどこから突っ込めばいいですか」
「ねぇなんで忠犬ハチ公が9年間も主人のことを待てたか分かる?」
「いきなりなんの話ですか……」
「それくらい飼い主はハチに愛情を注いでたんだ。9年間も待って貰えるほどの愛を、飼い主はハチに注いでたんだよ」
「……」
「俺は、そういう愛を、人にひけらかすのが嫌い。君なんかに、教えない」
ソラ君は背後にいるから表情が全く見えないけど、八神君は眉一つ動かさずにソラ君の言葉を聞いていた。
一体何の話をしているのだろう……。
気になって仕方なくなった直前で、ソラ君がやっと私の耳を解放してくれた。
「ちょっとソラ君!! 頭割れそうだったよ私!?」
「もう少しだったか」
「割りにいってたの!?」
「だってクルミ小顔になりたいっていつも言ってるじゃん」
「正気か!?」
「ぶ」
頭をおさえながらソラ君の言葉につっこみを入れてると、八神君がふきだした。
「え、八神君……?」
「はは、おかし……っ、双葉さんそんな風に大声出すんですね」
「いやだってこの人頭おかしいから!!」
「仲良いんですね」
八神君は一通り笑ってから、先に席戻ります、と頭を下げた。
「海空さん、貴重な話、ありがとうございました」
「……」
「でも俺、隙あらばって、思ってるんで」