忠犬カノジョとご主人様
八神君とソラ君①
サークルに入った当初、ソラくんという名前はよく耳にしていた。
サークルには全然来ないし、ほとんど幽霊部員みたいなものなのに、先輩たちは口々に海空先輩の話をしていた。
就職はどこに決まったらしいよとか、インターンのプレゼンでは1位とったらしいよとか、春からアナウンサーになる彼女がいるらしいよとか。
大学生の女は、ハイスペックな男が好きというのは本当だったわけだ。
1年生だった俺は、先輩の話をなんとなく聞きながら、世の中は世知辛いと思った。
新歓飲みはいくつも行ったけど、結局知り合いの先輩がいるこのインカレに落ち着いた。
外部の女の子は殆ど男目当てで、無論テニスサークルと名乗っていても、テニスなんかする気はさらさらない。
激安居酒屋で、まずい酒をバカみたいに飲むだけ。
今もこうして、1人2500円払って、チンしただけであろうおつまみをほとんど食べずに女の子と話してる。
「八神君何学部なのー?」
「俺は経済学部だよ」
「えー、凄ーい! 頭いい!」
女の子はニコニコ笑って俺の目を必死に見つめてくれる。
難関私立大に合格したらコネで大手保険会社に就職させてやると約束してもらったという理由だけで、ひたすらに勉強してこの大学に入った俺には、もう何も目標なんて無かった。
あとは四年間卒業できる程度に勉強して遊ぶだけ。
大学生は人生の夏休みとはよくいったものだ。
勉強をして手に入るものはこの世に沢山あるんだと、俺は学んだ。
「八神君って、思ってたけどソラ君にちょっと似てるよね、雰囲気」
「え」
突然四年生の女の先輩が、俺を指差してそう言った。
、、、
でた。またソラ君の話だ。