忠犬カノジョとご主人様
「あー、分かる、八神君の方が断然愛嬌あるけど、髪の毛黒染めしたら後ろ姿とかソラ君そっくりだよ!」
先輩はうんうんと納得しているけれど、俺はそのソラ先輩を見たことはないし、黒染めするつもりもない。
本人がいないのにこんなに話題に出されるなんて、ソラ先輩はさぞかしムードメーカーのような存在だったのだろう。
「ソラ先輩ってどんな人なんすか?」
「イケメンなのに趣味は1人神経衰弱なんだよ」
「え」
「なんかたまに植物に話しかけてる時もあるらしいよ、ウケるよねー」
「そんな人と似てるんすか、俺……」
「いや、顔だけはイケメンだから!!」
なるほど……。
イケメンだとどんな奇怪な行動をしてもウケるよねーで済まされるのか……。
俺はまた世の中の世知辛さを見た気がした。
「八神君、そういえば終電大丈夫? 」
「あっ!! やばい、すみませんそろそろ帰ります!!」
「また来てね! 八神君いると女の子喜ぶから」
「はは、なんすかそれ」
俺は先輩のお世辞を笑って流して、駅まで全力で走って向かった。