忠犬カノジョとご主人様
……海空さんの言っていることは、最もだろう。
仕事より恋愛を取る男じゃ、出世なんてできない。頼りがいもない。
それは俺も共感できるけど、俺は一度、双葉さんの涙を見てしまっている。
自分より仕事が大切だとはっきりそう言われてしまっている彼女は、それでもなお、深夜まで海空さんのことをご飯を作って待っている。
そのことを想像すると、なんだか胸の奥の奥がきゅっと苦しくなるんだ。
「……でも、たまには、優しくしてあげる日もつくってあげないと……」
「……君みたいな間男に掻っ攫われますよって?」
「そっ……」
海空さんの冷たい一言に、俺は思わず一瞬感情的になった。
でも、すぐに冷静さを取り戻して、俺はひとこと呟いてから軽く会釈をし、海空さんの後ろを通った。
「そうですね。俺みたいな奴がいますから。俺だけじゃないかもですけど」
……上司相手に、完全に宣戦布告。
海空さんと部署が違って、本当に良かった。
いつか海空さんがもっと上に行ったら、俺、真っ先に首切られるかも。
でも、双葉さんのあんな涙を見ておいて、さっきの冷酷な返しに、黙っていられるわけがなかったのだ。