忠犬カノジョとご主人様

八神君とソラ君②



「八神君おはよー!」

「双葉さん、おはようございます」

「今日も来るのはやいね、まだ朝走ってるの?」

「いえ、最近は資格の勉強で夜遅くて中々……」

「あー、そっかー、あんまり無理しないようにね」


俺の言葉に、双葉さんは本気で心配してくれたらしく、眉をハの字にした。

そうやって、他人のことを本気で心配できるところが、彼女の長所だと思う。

一緒に仕事をしていくごとに、俺は双葉さんのことをどんどん好きになっていた。

いつもにこにこしていて穏やかな所とか、心配性だけど仕事は凄く丁寧な所とか、新人のミスを一緒にフォローしている所とか……。

相当育ちも良く、人間関係にも恵まれて育ってきたのだろうと言うことが分かる。

まったく擦れていないし、自分より周りの人のことを優先して、何事にも素直に生きている。

そんな彼女が職場で好かれていないわけはなく、どうやら俺以外にも彼女に好意を寄せている人は上司にも同期にもいるようであった。

双葉さんが給湯室に行くと必ず同じようにコーヒーをおかわりに行く上司、わかりきったことを双葉さんに確認しに行く同期。

分かりやすすぎるその行動の意味を、当の本人は全く感づいていないようであった。

いや、そんなことを観察している場合じゃない。まず仕事を完ぺきにこなさないと、海空さんに勝てるわけが無い。

だから、絶対に資格を取って、昇進できるようにアピールしていかなきゃ……。

入社時の英語のテストも1位だったから、絶対に今回も1位の成績で合格しなきゃいけない。期待に応えなければいけない。

俺は本日2本目の栄養ドリンクをぐっと飲み干して、体内に無理矢理カフェインを流し込んだ。


そんなこんなで午後の業務もなんとか終えた。

信じられないくらい体が重く、疲労回復が遅くなったのを最近感じる。

これも俺がだんだん体力が衰えてきた証拠なのか……ショックを受けながらも、体調管理は自己責任なので今日ははやく帰って寝ることに決めた。

もうほとんどの人が帰宅し、オフィスには俺と双葉さんと数人の同期しかいない。

俺は重い腰をあげて席を立った。その時、目の前の景色が一瞬ぐわんと湾曲し、俺はデスクに思い切り手をついた。

バンッ! と、思ったより音は大きく響き、全員の視線を感じた。まずい。睡眠不足がかなり影響している……。


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