忠犬カノジョとご主人様
私が妬ましそうに言うと、八神君は爽やかに笑って“双葉さんも若いじゃないですか!”と言った。
全然社交辞令だと感じさせないで言う八神君は本当にすごい……。
噂によるとソラ君と同じ大学出身のエリートらしいし……。
眩しいよ、私には眩しすぎる……。
私はよっこいしょとおばさんくさい声を出して自分の席に座った。八神君はそんな私を見つめてる。
気になってどうかしたの? と、問いかけると、
「双葉さんって、本社の海空さんと付き合ってるんですか?」
「あーそうだよー」
「僕大学で同じサークルだったんですけど……」
「え!? そうなの!?」
「は、はい、なんか…掴み所なくないですか? 海空さんって」
「ソラく……海空さんは私もいまだによく分からないよ~、もうずっとまともに会話してないしね」
「え!?」
「今度恋バナしようよ八神君~」
「僕でいいなら!」
「はは、冗談冗談。さて仕事しようーっと」
私は小さく笑って、伸びをしてからパソコンにむかった。
入社して3年目。もう25歳になる。
そう言えば今日が私の誕生日だってこと、ソラ君は覚えているのかなあ。
そんなことを思いながらひたすらパソコンと向かい合った。
今日、ソラ君より先に家を出たのは、なんとなく2人でいても寂しかったから。
こうやって仕事をしている方が、寂しさを紛らわせる気がしたから。
でも今日は誕生日だし、少しはやく帰って何か特別なことをソラ君としたいな。
DVD一緒に観るだけでもいい。一緒にご飯が食べれるだけでもいい。
普通の恋人らしいことがしたいよ。
そう思っていたのに、新人の教育係だったこともあり自分の仕事が終わらず、いつのまにか定時を過ぎてしまった。
今日が誕生日だということを知っていた菅ちゃんが仕事を手伝うと言ってくれたけど、もう少しで終わると言って断った。
菅ちゃんはもう結婚してるし、旦那さんに料理をつくらないといけないだろうし……。
ひとりオフィスに残って、もくもくと仕事をした。
ソラ君には、“今日は残業で遅くなる、ごめんね”とLINEをしたけれど、既読のままなにも返信はなかった。
こういうことは良くある。全然大丈夫。
薄暗い事務室。聞こえるのはパソコンを打つ音だけ。顔を照らす青白い光……。