忠犬カノジョとご主人様
そう言って、海空さんは双葉さんの左手を掴んで、その薬指に光る指輪を切なそうに見つめた。
そして、それから再びぎっと俺を睨んで、こう言い放った。
「……ちょっかい出すなよ、って言ったよな?」
「………」
「俺に2度も同じことを忠告させたらどうなるか……覚悟してろよ」
心を凍りつかせるような、低く冷たい声。
声を荒げて怒鳴られるより、正直何倍も怖かった。
でも、初めて、海空さんの表情が崩れた、必死な様子を見た。
俺はそこに、初めて彼の双葉さんに対する愛情を感じた。
……俺は、双葉さんを連れて階段を降りていく様子を、黙って見つめていた。
海空さんは、俺じゃなくて、考えが足りなかった双葉さんだけを怒った。俺は怒る相手にもされていなかった、ということだ。
なぜかその時、すさまじい敗北感が全身を襲ったのだった。