忠犬カノジョとご主人様
八神君とソラ君③
あんなに怒っているソラ君を、初めて、見た。
強引にタクシーに乗せられ、家に帰った途端、ソラ君は激しく溜息をついて、ソファーに倒れこんだ。
私は、さっき怒られた理由が最も過ぎて、謝りたいのにとても謝れるような空気ではなくて、気まずくて立ち尽くしていた。
ソラ君は、ソファーに寝ころびながら額に左腕を乗せて、怒りを冷まさせるように目を閉じていた。
「……クルミ、お風呂入ってきな」
「え……でも……」
「部下の前であんなに感情をむき出しにして、情けなくてクルミにあわせる顔がないんだ……1人になりたいんだ……」
「っ……」
「分かって、クルミ」
……ソラ君の予想外の言葉に、私は胸がぎゅっとなった。
そして、ソラ君のいるソファーの元へむかい、床に正座した。
丁度寝ているソラ君と顔の高さが同じ位置で、私は、ごめんね……とつぶやいた。
「ソラ君が怒ってる理由が分からなくて、本当に馬鹿なことした……っ」
「……おかしいな俺、1人になりたいって言ったはずなんだけど……」
「うぅ、ソラ君~、お願いだから指輪だけは取り上げないで~っ」
「聞いてんのかよ人の話……取り上げねーよ……」
「私どんなにソラ君に冷たくされた日も、会えない日も、あんまり話せない日も、女の上司と2人きりで飲みに行ってる日も、これがあるから頑張れるのっ……」
「……」
「これがソラ君の愛の印だって、そう思って……っ、もっとちゃんと警戒心もつから、私っ…だから」